雨あがり

名前のない問いを考え続けよ_ROKUJOさん

婚姻届を出しに来たカップルを見て胸が苦しくなった。私には生涯縁のない書類を、幸せそうに、堂々と、レズビアンの私に渡してくる。私は数年後、その仕事…公務員を辞めた。


結婚とは?家族とは?何故家族を作るのか?何故セクシュアルマイノリティはその資格がないのか ?… そんな答えのない問いを続け、私は2019年12月に『ビアンカップル長期追跡取材』を開始した。「貴女たちカップルを、おばあちゃんになるまで取材させてください」そんな無茶な依頼を快く引き受けてくれたビアンカップルは11組。彼女たちの話を聞き、私なりの答えをまとめた。
まず、前提として『結婚(婚姻)』とは(現時点では)男女が夫婦となることを法律に則り契約する行為である。簡単に言えば「私たちは夫婦になります」という意思表示をすることで一定の法律効果(身分·財産·税金·医療·年金等)を得られるものである。また、『結婚』により『家族』であると社会的に認められることで、携帯の契約、夫婦割引、入院中のパートナーを『親族』として面会できる等の恩恵がある。
恐らくここまでで「そんなものを期待しての結婚ではない」「愛情があるから、一緒の家族になりたいから結婚するんだ」とお思いだろう。そうだ、それが正解だ。『愛情』があるから『結婚』という契約行為を行い『家族』となるのだ。それが現時点では男女を対象とした契約内容である、ただそれだけだ。では、セクシュアルマイノリティカップルの間で交わされる『愛情』は、法律により認められた男女の『愛情』と一体何が異なるというのか。法律的に効力のないパートナーシップ制度では、『結婚』により認められた『家族』の法律効果は得られない。それは何故か。

次に『結婚』により形成される『家族』とは何か。読者に問いたい。「貴方にとって家族って誰ですか?」…私の回答は、飼い猫とルームシェアの友人だ。勿論、法律に基づいた契約も血縁もない。だが、私にとっては間違いなく協力して生活する『家族』だ。なお、法律では「6親等内の血族」「配偶者」3親等内の姻族」を『家族(親族)』と定めている。それに従うのであれば、私の家族は父·母·兄、その他親戚になる。このズレは一体何か。そして、皆さまの回答はどうだろうか。

現時点の『家族』制度は、所謂”子どもを産み、育てるシステム”を想定したものである。度々国会議員の口から出る「生産性」云々の言葉は、「子どもを産まない·育てないイレギュラーを法律で守る必要ないでしょ」位の低いレベルからの発言であると思われる。では、『家族』を「生産性」で語る方々に問う。「子どもを産めない家族は、産まないと決めた家族は、家族ではないのか」「子育てが完了した家族にも法律的恩恵があるのは何故か」「様々な苦難を越えて、子どもを作る決断に至ったセクシュアルマイノリティカップルのSNSに、何故目を覆うような批判コメントがつくのか」「そもそも、子どもを産み、育てやすい社会システムなのか」もはや、『結婚』により形成される『家族』という概念は、表面的なものでしかない。

取材で「将来の貴女たちはどうなっていると思いますか?」と質問した時、未来を語るビアンカップルたちは、各々の夢を話しながら「ずっと2人で一緒にいたい」という。
「パートナーが面会謝絶になったらどうしよう」「何かがあった時、家族として認められないことで一緒にいられなくなったらどうしよう」そんな不安を抱えながらも、ずっと一緒に支え合いたいと願う姿は『家族』と一体何が違うというのか。その為に『結婚』が選択肢の一つとして認められるべきものであると考える。共に悩み続け、考え続ける存在に幸あれ。


ROKUJO
『ビアンカップル長期追跡取材』代表。「自分はレズビアンでありながら、お互いがお婆ちゃんになるまで一緒に手を繋いでいられたレズビアンを知らない」ことに疑問を感じ、『ビアンカップル長期追跡取材』を開始。2020年12月には取材内容の漫画化を目指したクラウドファンディングを成功させる。現在は、本活動が長期的に継続できるような活動資金の調達に苦慮しつつも、取材を続けている。

2022年8月発行雨あがり9号「結婚」掲載