
パートナーのじゅんさんと、たくさんの動物たちと一緒に暮らしているひとみさん。じゅんさんとの公開結婚式を機に、自分のセクシュアリティを知人全員にカミングアウトしました。
普段は獣医をしている傍ら、セクシュアルマイノリティが安心して暮らせる社会を目指し「特定非営利活動法人カラフルブランケッツ」の運営も行っています。そんなひとみさんにお話を伺いました。
セクシュアリティについて
シスジェンダーのレズビアンです。大好きだった女性から「ひとみちゃんが男だったら良かったのに」と言われた時は、自分が男性になればこの子と付き合えるのかなって思ったこともありました。でも自分の体の性に違和感はなく、自分は女性として女性が好きなんだと気付きました。男性と付き合ったこともありましたが、手を繋ぐことさえも嫌で、やはり無理だと思いすぐに別れました。
授業で知った笹野みちるさんが生きる道標に
レズビアンであると自認をした高3の頃、周りに同性愛者(だと公言している人)はおらず、インターネットも普及していなくて、「同性愛者って本当にいるの?どうやって暮らしていけばいい?」と思っていました。でもその時に同性愛に関する授業があって、先生が笹野みちるさんの話をしてくれました。私が初めて知った実在するレズビアンの人でした。笹野みちるさんの話を聞いて、「かっこいい!こんな人になりたい!」と思い、生きる道標になりました。
周りには同性愛をネタにいじめられている子もいましたが、私は笹野みちるさんのおかげでレズビアンであることが全然嫌ではなく、むしろ誇りにさえ思うことができました。
パートナーじゅんさんとの出会い
今はじゅんと一緒に一軒家を購入し、犬4匹猫2匹と暮らしています。じゅんと付き合う前に、私が告白をし続けて仕方なく同情で付き合ってもらった彼女がいました。でも好きな気持ちに温度差がありすぎてすごく辛かったんです。そんな時にmixiでレズビアンのコミュニティを見つけて、「誰か相談に乗ってもらえませんか」と書き込みをし、返信をくれた人がじゅんでした。同い年で住んでいる場所も近く、会って話を聞いてもらいました。温度差のある彼女とはすぐ別れてしまいましたが、じゅんと出会うきっかけになったので、今となっては感謝しています。
じゅんも当時好きだった人がいたけれど振られてしまって。それで「傷の舐め合い会」と称して行ったレズビアンバーのママに良い人がいないか聞いたら「二人で付き合ったら?」と言われました。じゅんの元カノさんはロングヘアのフェミニンな人で、私みたいなのはじゅんの眼中にないと思っていました。だから付き合うとかは考えてなくて、「うちらそういうんじゃないんですよ」と否定してしまいました。でも後からあんなに否定してはじゅんに対して失礼だよなと思って、「私としてはじゅんは恋愛対象に入ってるから」と電話で伝えました。そしたらじゅんも同じだと言ってくれて。その後も友達関係を深めていき、ある日急に「今から会える?」とじゅんから呼び出されて、「好きなので付き合ってください」と告白されて交際を始めました。


公開結婚式前、知人全員にカミングアウト
レズビアンであると自認しても、本当に親しい友達にも言えませんでした。カミングアウトするきっかけになったのは、2015年の関西レインボーフェスタで公開結婚式をすることになったことでした。
前年のゲイカップルさんの公開結婚式を見て、私たちもできたらいいなって二人で話していたんです。するとたまたま次の年に私とじゅんで結婚式を挙げてみないかとお誘いをいただきました。けれど公開結婚式を挙げたら誰に見られるか分からないし、ニュースに取り上げられたりしたら名前も顔も出てしまう…。無理だなと思いました。
私はその数年前から友人と一緒に動物病院を開業していて、「あそこの獣医はレズらしい。気持ち悪いから行くのやめた方がいい」なんて噂が流れたら、病院に迷惑をかけてしまう。けれどその話をしたら、「そんなことを言う飼い主さんはうちの病院に来てもらわなくていい。」と友人が言ってくれて。まさかそう言ってくれるとは想像もしていなかったのでとても嬉しかったです。また私は昔周りに同性愛者なんていないと思っていたのですが、公開結婚式を挙げることで当事者と非当事者に対して、そこら辺にいる人の中にも同性愛者はいるんだよと知ってもらえることはすごく意義があるのではと思い、式を挙げることにしました。
式の前にFacebookに記事をあげ、会える人には会ってカミングアウトしました。98%は好意的な反応でしたが、中には「ショックだ」とか「同性愛について考えたことがないからどう反応したらいいか分からない」と言われたりしました。
母には結婚式の前日に伝えました。私がレズビアンだということはうすうす気づいているかなと思っていましたが、「あんたレズビアンやったんか!」とすごく驚かれました。でも「一生一緒にいてくれる人ができて安心した」と言ってくれました。

特定非営利活動法人カラフルブランケッツを設立
カミングアウトしてからはバレないように気をつかわなくてよくなり、嘘をつく罪悪感も無くなってすごく気持ちが楽になりました。カミングアウトしたい人ができる世の中になったらいいなと思った事が、カラフルブランケッツを始めたきっかけの一つです。
また、結婚式を挙げてから同性カップルの暮らしぶりを話してくださいという依頼もくるようになりました。同性婚の法制化を目指す上で団体として関わった方が大きなことができると考えていましたし、当事者同士のコミュニティも作りたいなとも思っていました。そんな時に行政書士の康さんに出会いました。康さんは仕事で任意後見に関わっていましたが、個人で任意後見を請け負うと後見人が先に死んだら、その後見契約は無駄になってしまいます。なので団体として戸籍上の親族と疎遠になりがちなLGBTQの人たちの任意後見を請け負うシステムを作りたいと考えていました。それで意気投合し、一緒にカラフルブランケッツを設立しました。

ひとみさんにとっての結婚
私自身、結婚願望は全くなかったんです。パートナーができたらいいなとは思っていたけれど、結婚するなんてどうせ無理だと思って全く考えていませんでした。でも結婚式を挙げたら、みんなに祝福してもらえる事がすごく嬉しくて、今までで一番幸せな気持ちになりました。
世間では婚姻制度自体についても賛否両論あり、異性婚さえも無くなればいいなんていう話もあります。でも今結婚している人はたくさんいるし、いきなり婚姻制度を日本から無くすことは難しいですよね。まずは同性婚をできるようにしてから婚姻制度について考えていく方がいいのかなと思います。
同性婚ができないことによって同性カップルが異性カップルより一段下に見られているように感じます。私は偏見を無くす手段として、国が同性婚を認めてくれることを望んでいます。
ひとみさんより一言
今は当事者の方の話に触れられる機会が色々あります。一人で悩んでいると良い方向に考えが向かないこともあるし、もし今悩んでいることがあれば、少し勇気を出し一歩踏み出していろんな人に会って話してみることも必要なのではと思っています。

2022年8月発行雨あがり9号「結婚」掲載