雨あがり

最終的には生き抜いたもの勝ち、地道にやっていれば必ず道は開ける【Tomoさん】

女性の体で生きることに違和感と苦痛があり、25歳で性適合手術を受け男性として生きる決意をしたTomoさん。セクシュアリティで悩むこともありましたが、
セクシュアリティを言い訳にして、自分のしたい生き方を諦めることはしたくないといいます。そんなTomoさんのセクシュアリティの自認から、就活、そして現在の働き方など、生き方について伺いました。

セクシュアリティの自認から性適合手術を決意するまで

自分の性に違和感をもったのは物心ついた時から。しかし自分が生まれた時には、性同一性障害という言葉はなく、同性愛者だと思っていました。何者か知ることができたのは高校一年の時、友人に「それって性同一性障害じゃない?」と言われたこと。そこから調べて「なるほど」という気持ちになりました。自分は女性として女性が好きな訳ではなく、男性として女性が好きなんだという気付きがありました。しかし今後どうすればいいんだいう葛藤もありました。手術で体を変えて、男性として生きるか、このまま女性の体で生きていくか。結局女性として生きる苦痛が勝り、20歳から男性ホルモン注射を始めることを決意しました。
25歳の時、性適合手術(胸、子宮)をタイで受けました。手術後は、陰室形成手術も考えましたが、リスク·技術面から断念し、10年くらい経ちましたが、不自由はあまりないです。ただトイレは不便ですね。最近個室男子が増えていて、皆スマホいじってるのか全然出てこないので、緊急時に困ります(笑)。医療技術が向上し、より男性に近づけるのであれば陰茎形成手術も考えますが、今はこのままでいいかなと思っています。
家族へのカミングアウトは、男性ホルモン注射を始めると声が低くなるのでその段階でばれますが、自分の場合、その前に男性になりたいと話していました。最初は抵抗があったと思います。しかし止められないと感じたのか家族側も受け入れざるを得ないと妥協しました。そういう意味ではセクシュアリティ的な部分ではカミングアウト後も家族関係が悪くなるということはなかったです。

悩みを乗り越えるきっかけと出会いをくれた新宿二丁目

前に付き合っていた女性とは、最終的にETM(Female to male。身体的には女性だが、性自認は男性。Tomoさんは女性から男性へと性適合手術をした)で子供ができないからと言われ、別れました。そんなの分かってたことだろうって思ったんですが、普通の生活に戻りたいと言われたことで、セクシュアリティの壁を感じ、悩みました。どうしようかと思っていた時、二丁目に行こう、と。その時も二丁目の街にはいろんな人がいて「FTMだからこうしなきゃ」って自分を追い込んでいたのは自分だと気付きました。
今のパートナーとは二丁目のバーで知り合いました。意気投合して、という感じ。しかもエイプリルフールに告白したのでなんか嘘っぽいよねって(笑)。パートナーとは恋人というよりもう家族。束縛はなくお互い好きなことをしています。

世間に対して思うこと

不思議な事に、男性として生活していても女性の友人が多い為、独身女性と飲むことも多く、結婚や子育てが強制されている世の中が嫌とよく聞きます。女性も生きやすい世の中になっていけばいいなと思いますね。
自分は自由が好きなので、結婚したくないし、子供もいなくてもいいと思います。あとは人を好きになるってそもそも何だろうっていう人もいると思いますが、そうであれば無理して人を好きになり、結婚することも必要ではないと思います。理想は、好きな時に好きな人と楽しく集まれる、そういう生き方ができれば良いなと思います。マイノリティ云々という枠を抜きにして、一人の人間として尊敬でき、楽しい人と一緒にいるのが一番良いですよね。

就職は意外といける!

職場ではカミングアウトをしてもいいし、それで別に仕事に影響が出るのであればそれまでの会社かなと自分は思っています。自分の場合、女子高だったので否が応でも学歴を書くとカミングアウトになってしまうので、その度に性同一性障害の説明をします。もちろん全ての会社が良い顔をする訳ではなく、面接で「それは精神障害の一つですか?」と言われたこともあります。録音して訴えたら勝てそうな事例ですよね(笑)。それでも、就職は普通にできますし、仕事ができれば関係ないと思います。新卒の就活であればみんな一律で見られますし、自分もハンデはないと思いました。当時受けた会社にも色々配慮していただけました。ぜひ働いてほしいから治療や病院を教えてほしい、という会社もありました。今の時代であればセクシャルマイノリティを前向きに考えている企業も多いので、むしろメリットになるのではないかと思います。

Tomoさんから一言

「普通に生きられる」の一言に尽きると思います。会社は短いものも入れるとここ10年弱で10社くらい働きました。でもちゃんと収入を得て、趣味の飲み歩きもできて、好きなものを買って、新宿に持ち家もある。FTMだから出来ませんっていうことはないと思います。セクシュアリティの悩みの冒頭と同じで、セクシャルマイノリティだからこうだと決めつけて、自分でその人生を選んでいるだけだと。やりたい事やなりたい自分があれば学び、標に向かっていけば自分のなりたいものになれると思います。だからセクシャルマイノリティだから悲観する必要はない事を伝えたい。
今まで「死にたい」と思うことは山ほどありました。でも最終的には生き抜いたもの勝ちです。地道にやっていれば必ず道は開けます。
いわゆる一般の会社に勤務して、結婚して、という生き方をしたいなら、簡単にできると思います。先のとおり今の時代はセクシャルマイノリティも就職はし易いと思います。それはすごく羨ましい。叶うなら自分も新卒に戻り、入りたかった企業に就職したいです(笑)。
だからセクシュアリティ云々を気にしなくたって生きていけますし、言い訳にもしたくないと思っています。私の場合は、FTMだからしょうがないよねって思われるのは負けた気がして悔しく感じます。生身の男性とは筋力というところでは鍛えないと敵わないところもありますが、その他は負けるつもりもないですし、その為に努力は続けるつもりです。

Tomoさんの考える「未来」

自分の目標で言えば収入面を上げる事がまず1点。でも収入面を向上させる為には、世の中の法則で自分だけがこうなりたいってだけじゃ実現できないみたいです。では、第三者の為に何ができるのか考えた時、労働関係で力になれるのかなと思っています。前職では労働組合の役員、現職は人材紹介会社と、労働関係に縁があると気づきました。人の働き方に関わるということが自分の潜在的な部分で望む道筋であれば、今後の目標は起業し、セクシュアルマイノリティの就職支援をやることも考えています。現在も就職支援会社は複数あると思いますが、例えばレズビアンの人と、FTMと、ゲイの人を並べたときに、FTMやMTF(Female to male。身体的には男性だが、性自認は女性。)の人が一番大変だと思います。その話は、二丁目で飲んでいるとよく聞く為、その課題を克服し、悩んでいる人達が当たり前に働ける就職支援ができればと考えています。
もし妥協して「人不足の職種ならセクシャルマイノリティでもOKでしょ」みたいな働き方をしている人がいるなら、複雑な気持ちになります。人生で仕事をしている時間は3分の2以上あると思いますし、自分が選んだ仕事には誇りをもって働いて欲しいと思っています。一度きりの人生だから好きなことをやって生きて欲しい。これが正解ということは、多分ないですね。やりたいことや得意なことをやって、楽しく生きて欲しいと強く思います。

2020年8月発行雨あがり5号「未来」掲載