雨あがり

自分にできることでアクションを起こせば、社会に変化が起きる【美乃まことさん】

北海道の地方に住んでいたまことさんは、札幌でセクシュアルマイノリティのイベントに参加するまで、ご自身のことを”普通”ではないとずっと感じていたそうです。しかしセクシュアルマイノリティの世界を知ることで、皆が普通の人であることを知り、また自分も普通の人だと感じられたそうです。そんなまことさんのセクシュアリティの自認から最近の活動をお伺いいたしました。

セクシュアリティについて

Xジェンダー(性自認が男女のどちらでもない)です。色々あってロマンティック・アセクシュアルなんだと気づきました。
アセクシュアルとは性欲がない人のことや、相手に対し性的欲求を持たない人達のことを指すようです。
恋愛と性愛は別のものと考えられ、恋愛が必ずしも性愛に伴うと言うわけでもない。私の場合は性欲がないということではなく、相手に性的欲求を向ける(向けられる)必要が無いというタイプです。
私がアセクシュアルだと考えたのはそこです。恋愛的な気持ちになる。でも性愛を求める意味はよくわからないし、経験上性嫌悪もある。結果恋愛感情(ロマンティック)があっても性愛はなくていいセクシュアリティなんだと思いました。

セクシュアリティ自認のきっかけと初めての大恋愛

元々恋愛に興味が薄く、漫画や映画の恋愛ものもあえては観なかったです。よくある恋愛ドラマの男女の在り方が好きではなかった。早くから結婚はしないと周りに言っていたし、想像もしたくなかった。男性を好きになる気持ちもあまりなくて、ずっと自分は恋愛感情のない人間だと思っていました。でも今となっては女性も好きになることがわかったので、性的指向の問題もあったかと思います。
3年ほど前、初めて真面目に将来のことを考えた女性ができました。恋愛沙汰に興味がなく、皆どうやって恋愛をするのかなと不思議に思っていた自分が、こんなに誰かを好きになるとは夢にも思わなかったです。そうなった時は、恋愛するってこういうことなんだと素敵な気持ちになりました。けれど相手に振り回されるばかりでうまくいかず、酷く傷ついて終わりました。それがきっかけで性嫌悪にもなりましたが、これまでの人生で何より大きな経験でした。

札幌に来て知った、セクシュアルマイノリティの”普通”の世界

地元は北海道の地方で、5年ほど前に札幌に移って来ました。その1年くらい前からイベントに参加していたのでセクシュアルマイノリティ界隈にいるのは6年くらいです。
それまではこういう世界のことは想像もしていなかったです。セクシュアルマイノリティと言えば、テレビに出ているような”オネエ”とか、煌びやかな濃い人たちをイメージしていました。でも札幌で初めて女性が好きな女性のための集まりに行くと、すっごく普通の人や私と同じような人がいっぱいいて。その時私自身が偏見を持っていたことに気付きました。そしてそれまで普通じゃないと思っていた自分自身も、外側から見ればただの普通の人なんだということに気付かされました。
今は友達の9割がセクシュアルマイノリティなので、生きやすい感じはあります。札幌に来てからはあえてセクシュアリティを隠すことはしていなくて、同僚にさらっとカミングアウトすることもあります。Xジェンダーと言っても?だろうから、LGBTQという感じでしょうか。

まことさんの作る球体関節人形  

元々球体関節人形を鑑賞するのが好きで、とある作家さんの作品にすごく感動しました。その人形が欲しくなったのですが高いし保存も難しい。だったら作ればいいか!となったのが人形作りのきっかけです。今は教室に通い1年に1体のペースで制作、展示参加もしています。毎回テーマはセクシュアルマイノリティと決めています。
1体目の人形は私が創作した、兄弟の共依存と愛情の物語に出てくる男の子。次はXジェンダーをテーマにした2体。男の子の人形にワンピースを着せ、女の子の人
形には男性的なポーズをとらせました。4体目は自分を模して作った人形を、苦しかった過去をここで葬りましょう、という意味で棺に入れて展示しました。ちなみに次回作のテーマは「トランスジェンダー」。童話風の物語を考えて、絵本+人形にする予定です。人形作りで一番難しいと思うのは表情。すごい表情を作る方の人形を見るとハッとさせられます。人形作りの今後の目標は、尊敬する作家さんで無表情の中に感情の機微を感じさせる顔を作る方がいて、いつか自力でそんな表情を作りたいのと、人形が10体になったら個展をすることです。

最近の世の中に対して思うこと

今の世の中は様々な暗黙の了解が存在します。こうであろうという前提で社会がなりたってしまっている。本当は違っていても誰もツッコミを入れない。当たり前と思われていることも実は当たり前じゃないと言わなければ、誰も気づいてくれない。言える人が声を上げて、私たちはここにいると言うことが大切だと思います。
9月に「ぼくが性別ゼロに戻るとき」という映画のトークイベントをしました。国内最年少で性別適合手術を受けた方の9年間を追ったドキュメンタリー映画です。こ
れを知ったのは劇場公開がまだされてない時期で、どうしても観たいから自主上映しようと公式からOKを貰ったものの、上映する劇場が見つからず挫折しかけ…その時声をかけてくれた友人が北海道大学の卒業生で、更に同大学のセクマイサークルの協力も貰えて講堂が借りられることになりました。観た感想はとても衝撃的。必ず誰かと話したくなる映画です。この作品を広めることが、こういう人たちがこの社会に普通にいるよ、という働きかけになると思っています。

まことさんから一言

SDGsという世界が目指す17の目標の中に、飢餓や差別をなくそう、ジェンダーを平等に、といった目標があり、その中にはセクシュアルマイノリティの問題も入ります。私たちは内側から外を見がちだけど外から内を見ることも必要。SDGsを通していろんなことに参加していきたいですね。
地元は地方の片隅で、生きるのはしんどかったけど、ここに来てから人生180度変わりました。昔は何でもやる前に無理だと決めつけて行動しなかった。今はまずやってみようという感じ。今こそが生きていると感じてます。
それはいろんな人に会って考え方が変わったおかげだと思うので出会いって大事だな、と思います。日々世界は物凄い勢いで動いています。だから何か自分にできることでアクションを起こせば、社会に変化が起きるのではとの期待を持って、いろんなことに挑戦しています。

2021年2月発行雨あがり6号「透明」掲載