雨あがり

学生時代の予期せぬ事件【アツシさん】

学生時代はテニスサークルに所属する傍ら、LGBT当事者の学生サークルで幹事長を務めた経験を持つアツシさん。現在は社会人1年目ということで、学生時代の思い出から就職活動の話まで、幅広くお聞きしました。

就職活動について

基本的に、就活のときはゲイって言いませんでした。それ使うと卑怯だなっていうのも言葉があれですけど、あんまり使いたくないなあと思っていました。LGBTサークルの幹事長もやっていたんですけど、それを伏せた状態で面接に挑んで何個か内定が出たので、じゃあもう最後に全部オープンでやってみようかなって思って受けたところが今の勤務先ですね。だから、面接のときにゲイって言ったのはこの会社だけで、面接も通って待遇も良かったからここでいいかな、みたいな感じです。
卑怯っていう言葉がちょっと良くないかもしれないんですけど、LGBT枠入社みたいなのが万が一あったら嫌ですし、セクシュアリティが落ちた理由になっても嫌だなあと思ったこともありました。

学生時代の予期せぬ事件

大学1年生のとき、サークルに2つ入りました。1つはLGBT当事者のサークル。もう一つはテニスサークルに入りました。テニスサークルでは、当初ゲイであることを
全然言っていませんでした。でも、大学2年生の新歓合宿のときに、日本酒を一升瓶くらい飲まされちゃって記憶がぶっとんでしまって、「自分はゲイなんだ!!」って言って廊下中を走り回るという奇行をしてしまったようで…(笑)。
次の日、テニスコートに行ったらなんかみんなちょっとよそよそしくて、仲良い子呼び出して「なんかあったの?」って聞いたら「なんかお前、自分のことずっとゲイ
だって言ってたけど?」って言われて「ええ??ああ、うん…」みたいな。当時は「やばい!」って青ざめましたね。ちょうどアナと雪の女王がやっていたので、「ありのーままのー」ってずっと歌っていたくらいの心理状態でした(笑)。テニスサークルの中でもやっぱり言いたい人と言いたくない人がいて、自分で管理すべきはずがその垣根を全部自分でぶっ壊してしまったので。

ゲイキャラという立ち位置

新歓合宿後の数か月は情報が錯綜する時期が続いていましたが、ノンケの仲良い友達から「アツシがゲイなの?って他の人から聞かれたときにどう答えたら良いかわからない」って本気で困っていると言われたので、これはどうにかしないといけないなと腹をくくって、そこからはいわゆる「ゲイキャラ」として完全にオープンにっていうか、必要以上にゲイであることをアピールしてました。過度なボディタッチとか、そんなにイケメンじゃなくても「イケメン!」って言うとか。やっていて辛くはなかったですね。自分自身は楽しくやっていたつもりです。
その後は徐々に認知率100%になっていって、3年生になる頃には話したことない1年生が、俺の恋愛事情を全部知っていました。プライバシーないな、みたいな(笑)。
もし、新歓合宿の事件が無くてカミングアウトしていなかったら、ここまで仲良くなれていなかった可能性もあるので、その辺はちょっと面白いですよね。
俺がゲイだとオープンにしているから、相談できることもあったと思います。例えば女子のいざこざに何の気持ちもなくサッと言える、男とか女とか関係なく言える存在ではあったかもしれないですね。
あと自分がやっぱりさらけ出しちゃったほうが、最終的に仲良くできるんだなっていうのはちょっとよくわかりましたね。自分がゲイなんだって言った後のほうが、相手がどうこうじゃなく、自分から相手との距離を置くかどうかの話になって、自分が壁を感じなくなったなと思います。
自分で勝手に作った壁を自分で取り外す、みたいな感じですね。最終的にテニスサークルはすごく楽しかったです。今も当時の友達とは飲みに行きます。

職場へのカミングアウト

「ゲイに生まれてよかった」みたいな言説があまり好きじゃないんです。同時に、「ゲイに生まれてつらい」も好きじゃないんですよね。どっちでもなくない?って思うんです。ゲイであることは、確かに人生において大事な要素の一つかもしれませんが、それも全てではないし、かといって無視していいものでもないと思います。個人の自由なんですけどね。
勝手な認識なんですけど、会社で「ゲイだから」を言うのはまだ早いかな、と思っています。「仕事ができる」という前提で「ゲイ」って言うのは多分楽なんですよ。その人は優秀で、さらにゲイなんだよって言うと、多分周りも覚えやすくなるし、有名にもなるし、信頼もされるし、っていうプラスになるんですけど、「仕事ができない」というのが入ってきちゃうと、ゲイであることがネガティブ要素になってきそうだなという懸念があります。勝手な心配かもしれないんですけどね。
テニスサークルでも、自分がどうしてこんなに受け入れられたのかなっていうと、サークルで評価される軸として例えば「お酒が飲める」「話せる」「人間関係の政治がうまい」とか、そういう要素がある前提で「ゲイである」ことをうまく活かせたからよかったものの、実際「お酒も飲めなくて」「あんまりしゃべれなくて」「つまんなくて」みたいな人が「ゲイだ」って言ってどうなったかは全然保証できませんね。テニスサークルもそんなに甘い社会ではないので。

新しい時代にやってみたいこと

自分としては恋人がほしいと思うセクシュアリティなので、幸せなパートナーを見つけて、慎ましやかに暮らしていけたらと思います。
結婚式やってみたいな、という気持ちは昔から強いですね。みんなに祝ってもらうのは人生で1回あってもバチはあたらないかなあと。そういう人とたとえ一瞬であってもそういうことをできる関係性が築けたのであれば、死ぬ直前にちゃんと思い出せそう、みたいな。ポジティブなんだかネガティブなんだか分からないですけどね。
仕事以外ではノンケの友達が基本的に多いんですけど、第1次結婚ラッシュを迎えています。結婚すると明らかに繋がりが薄くなったり、飲み会に来なくなるので、友達が減る一方なんですよね。結構危惧してます。童貞の同期の友達と、「どうにかして結婚の流れを阻止しよう」みたいな話をしていました(笑)。
社会人になってどんどん地方に行く人も増えているので、友達を増やさなきゃなあと思います。なので、絶賛友達募集中です。

2019年8月発行雨あがり3号「新しい」掲載