
新型コロナウィルスの影響を受け、見通しが立たない日々に疲弊している人は少なくないだろう。やっと緊急事態宣言は解除されたが、感染の第一波、第三波への懸念は無視できないし、新しい生活様式とやらに慣れていくのも苦労しそうだ。こんな殺伐としたときに、未来について、将来について想いを馳せることは、正直しんどい。しんどいけれど、やってみる。
未来という言葉を「コロナが落ち着いたらやりたいこと」に置き換えてみよう。実は、本当はすぐにでも始めたいけれど、頓挫しているものがある。それは「マイノリティレンタル」だ。
おっさんレンタルの活動を始めて丸3年。1時間1000円で様々なニーズに応えていく何でも屋のようなそのサービスは、悩みや思い煩いを打ち明けてもらう機会が圧倒的に多く、たくさんのマイノリティな人たちとの出会いがあった。
自分のようなゲイや、いわゆる性的マイノリティと呼ばれる人たちには、そのマイノリティ性に起因する生きづらさや困難が付き纏うものだが、そうじゃない人でもみんな何かしら困りごとを抱えていて、実は大変なのである。レンタルの活動から、そんなよく考えれば当たり前だけど大事なことに日々気付かせてもらっている。
例えば、難聴の人。中でも生まれつきではなく事故や病気で中途で難聴になった人などで、発話が問題なくでき一見すると聴者と変わらない場合、見た目から当事者であるとはなかなか判断することが難しい。本当に聴こえないのかと疑われることもあったり、必ずしも手話が使えるわけでもないので聴こえるフリをしてしまったり、誰にどこまで自分のにとを話すかどうかで困ってしまうことも多々あるそうだ。
こんな風に、色々な人の色々なカミングアウトに向き合い、相手のマイノリティ性に触れた時、ぼくは共感せずにいられなくなる。
今でこそカミングアウトして生活している自分も、かつては異性愛者のフリをして周りに話を合わせていたことがあったし、誰にどこまで自分のことを話すべきかは、大人になるまで決められなかった。
様々な価値観や人生観が混じり合い、多様性が叫ばれる時代のはずなのに、普通に生きているだけではそれらを身近に感じる機会はなかなかないと思う。身近に感じることができなければ、偏見は取り払えないし、無知や無理解、無関心、無意識からくる差別の負の連鎖は止められない。
レンタルの活動は、そんなもどかしさの突破口になる可能性を秘めていると確信している。
周りに言えない秘密の属性こそが武器であり、ニツチな分野であればあるほど、そのニーズは計り知れない。
今こそ様々な社会的マイノリティ同士が連帯し、マジョリティに対して穏やかにアプローチし得る手段として、それぞれのマイノリティ性を活かすレンタル活動をぼくは全力で応援したい。
河野陽介Kawano Yosuke-
茨城県神栖市出身。東京藝術大学卒業後、フリーランスの声楽家として各地での公演や音楽教育の場に携わる。その傍ら、自身もゲイであることを公言し、地元を中心に全国で性的マイノリティに関する活動を展開。
2017年から所属する「おっさんレンタル」では、「自らのマイノリティ性を見つめ、受け入れられた時、誰かのマイノリティ性に寄り添えるのでは」という信念を持ち、多種多様な困りごとに対応する。犬や猫が好き。
2020年8月発行雨あがり5号「未来」掲載