
おっさんレンタルの活動をしていると、ぼく自身がゲイであることを公言しているのもあってか、性的マイノリティにまつわる相談ごとは絶えない。
「恋愛として人を好きになったことがない」という相談から、※アセクシュアルの話に発展することもあるし、「結婚して子供もいるけど、わたしは性同一性障害だ」という人も少なくない。「異性愛者として生きてきたけど、自分は同性愛者だと思う」とか、「同性のパートナーとの関係が上手くいっていないが、誰にも相談できない」という人も多い。
児童養護施設出身で他者とのコミュニケーションの取り方に悩む人、結婚願望はあるが※緘黙症のためになかなか上手くいかない人、発達障害の傾向を疑って調べてみたら実は※HSPかも知れない人など、いわゆる社会的マイノリティとされる人や、そのボーダーにいる人からの相談も時々ある。セクシュアリティを問わず、周りからの結婚のプレッシャーがしんどいという人や、不倫の相談もかなり多い。
ぼくは日本でも同性結婚ができるようになって欲しいと願っているが、結婚ができるからこそ生まれる不幸もあるんだな、それに比べてゲイというセクシュアリティで生きることは、色々な意味で何と自由なことかと思ってしまうことさえある。
ほとんどの人に共通しているのは、「この話を他人にするのは河野さんが初めてだ」ということだ。人は誰しも、追いつめられると最終的には自分を傷付ける(=自死)か、他者を傷付ける(=殺人)かのどちらかに辿り着いてしまうものだと思うが、そうなる前に信頼できる誰かに相談することは本当に大切だ。それらはぼく自身も昔からとても不得手だったので、おっさんレンタルを通じて自分も学びや気づきを得られていることは、尊い。※線維筋痛症で家の外に出られない人や、※嚥下障害と向き合う人から、その症状を緩和するために呼吸法やボイトレを依頼されることも最近増えてきた。
世の中は本当に様々なマイノリティ性に溢れていて、人は誰しもマイノリティな部分があるものなのだと痛感させられる日々だ。LGBTを理由とする困難もたくさんあるが、LGBTじゃない人だってみんな大変なのだ。
自分のマイノリティ性を受け入れることは、難しい。でも、もしそれができたなら、自分を好きになって、今度は他者のマイノリティ性に共感することができるようになるかも知れない。お互いに寄り添ったり支え合ったりすることさえできるようになるかも知れない。
みんな誰でもマイノリティ。そんな視点を携えながら、これからもおっさんレンタルを続けていきたい。
※アセクシュアル…恋愛感情や性的欲求がない人。無性愛。
※緘黙症…特定の場面や状況で話すことができなくなる疾患。
※HSP…ハイリー・センシティブ・パーソン。人一倍繊細な感受性や気分の傾向を持つ人。
※線維筋痛症…身体のあちこちが痛んだり強張ったり等する原因不明の疾患。
※嚥下障害…様々な原因で食べ物が上手く飲み込めない状態。
河野陽介Kawano Yosuke-
茨城県神栖市出身。東京藝術大学卒業後、フリーランスの声楽家として各地での公演や音楽教育の場に携わる。その傍ら、自身もゲイであることを公言し、地元を中心に全国で性的マイノリティに関する活動を展開。
2017年から所属する「おっさんレンタル」では、「自らのマイノリティ性を見つめ、受け入れられた時、誰かのマイノリティ性に寄り添えるのでは」という信念を持ち、多種多様な困りごとに対応する。犬や猫が好き。
2020年2月発行雨あがり4号「告白」掲載