
様々なマイノリティを題材にした漫画「青春マイノリティ!!」を描かれているえいくら葛真さん。今回は担当さんも一緒に漫画についてお話していただきました。またえいくらさんの、セクシュアリティについて考えることもできないほど過酷だった幼少期の経験などもお伺いしました。
セクシュアリティについて
自認はXジェンダー(男性でも女性でもない性自認)です。僕は、ずっと母から虐待を受けていました。今日を生きることに精一杯で、セクシュアリティの自認がすごく遅かった。性別についておやっと思ったのは高校の時です。僕は性別を気にせず誰とでも遊んでいたのですが、「お前違うじゃん」と言われました。その時は「なんで?」と。でも虐待は続いていたので、違和感を感じつつ、ずっとおざなりでした。
様々なマイノリティが出てくる漫画「青春マイノリティ!!」
青春マイノリティ!!を描く前に、ツイッターでキーワードに沿ったキャラを書く企画があって。そこで出来たキャラを無印良品の4コマメモ帳に描いたのが、初めて描いた漫画でした。青春マイノリティ!!は実体験でもないし、モデルもいません。キャラクターが描いてくれ、と僕のところへ来た感じ。今までもキャラがやってくるとその設定を絵と文で描きとめていました。でも企画で漫画を描くことができたので、青春マイノリティ!!も描き始めてツイッターに載せるようになりました。
その頃に僕の担当さんがツイッターで企画していた漫画賞に応募しました。受賞目当てではなく、応募作品全てに講評を送ると書いてあり、プロの人の講評を聞きたいと思って。講評はいただけましたが賞は逃したのでこれでおしまいかなと思ったら、今に繋げてくださいました。
青春マイノリティ!!はいろんなマイノリティの人が出てくるのが珍しいと言われます。アプリ、ウェブ掲載の他に電子書籍もありますので、是非読んで欲しいです。
担当編集者・隅谷さんから見たえいくらさんの漫画
4コマ漫画が300本程送られてきて、長い!が第一印象。この量がくることはあまりないです。ただその漫画賞は僕の責任で全部やる賞で、審査員も僕だけ。講評は送らねばいけない。それで青春マイノリティ!!も読んでみたら300本読ませられちゃう力があった。その頃の漫画に出てくるセクシュアルマイノリティのキャラは変わったキャラか、エロ。真正面から描いた漫画はあまり見たことがなかった。編集長に見せたところ、やってみる価値はある、と。そこから連載が始まりました。
セクシュアリティを考えることもできなかった過酷な家庭環境
漫画を描く前は歌を歌っていました。お父さんお母さんありがとうの歌は僕には経験がないから創れない。それで虐待の過去を歌ってみたら、すごく反響がありました。
僕の家は父と母と弟。父はワーカーホリックで、僕の年齢も誕生日も知らないし、虐待にも気付いていなかった。母からはクズと呼ばれていました。ご飯もなく、かと思いきや、思春期には色気づくと困るからと大量の食べ物を出されました。少食なのでトイレで吐いていましたが、それが見つかって殴られ、嘔吐恐怖に。結果すごく太った僕を母は撮影し、写真を自分の不倫相手に見せて化け物みたい、と笑っていました。
弟との関係は今も良好です。母は弟の前ではいい母で弟は虐待を知りませんでした。もし虐待を弟に言ったら同じことを弟にすると脅されていたので、僕も弟の前では普通の子供でした。サンドバッグの僕と母の宝物の弟は身分が違うから、家の中でも会うことが許されない。僕はゴミだから弟に触るなと。弟に会いに行く時は、自分の部屋の窓から屋根をつたって弟の部屋へ行っていました。でもある時弟が虐待を見てしまった。そこからは弟の方が大変。それまで信じていた母像が崩れてしまって、母との楽しかった記憶を失ってしまった。顔も能面みたいになってしまって。でもそれも全部僕のせいにされました。
小学校も安らげる場所ではなかった
虐待しかされてこなかったので、周りとの接し方がわからず6年間ずっといじめられていました。5、6年の時の担任の先生がいじめに気付いてくれて、でも僕は誰にも言わないでと頼みました。もし僕がいじめられなくなったら他の子がいじめられるから。そこから先生と今日あったいじめを書く交換日記が始まりました。今日はストーブで足を焼かれた、崖から落とされた、鞄を川に投げ入れられたとか。先生は約束を守って、卒業までただ黙って読み続けてくれました。きっと辛かったと思う。
中学では親友に出会えました。親友の家も困難を抱えていて、意気投合しました。親友に初めて母の話をした時、えいくらのおかんオニババだな、と言われて、母はおかしいんんだ、と初めて気付いた。その瞬間は今でも覚えているし感謝しています。それがなければきっと今も気付いていない。それまでの母は神様。母がゴミというから僕はゴミ。僕がクズだからしょうがない、で生きていました。でもその時から母は何なんだ?と考え始めました。
ペンネームも虐待の経験から
高校卒業を機に実家を出て、一人暮らしを始めた大阪で出逢った仲間に貰った呼び名が「イクラちゃん」。絵を描くことになってから頭に「え」をつけました。でも「えいくら」だけだと検索が難しい。連載が決まり、名前を付けようと思った時、母が僕に「お前はほんまもんのクズや」とずっと言っていたのを思い出し、じゃあ本物(真)のクズだからと葛真にしました。母は絵が上手くて、でも周りの反対でしぶしぶ保育士になった人。だから僕が自由に絵を描いてるのが許せなかった。僕は殴られて鼻血と涙で紙を汚しながらも描くことをやめなかったし、やめられなかった。その姿勢を忘れない為に、母に一番言われていた「絵を描くお前(イクラ)は真のクズ」を名前にしました。
えいくらさんの「新しいこと」
新しい連載を始めたいです。新作もマイノリティを扱っていくと思います。虐待もセクシュアリティも、僕がそうだから。周りも貧困や、障害や、難病や、いろんな意味でマイノリティの方が多くて、それが僕にとって身近で当たり前の世界。だからここから何か届けられたら、と思います。
あとこれからはみんな気楽に生きていこうよ、と思います。僕は醜形恐怖症。でも大人になってから吹っ切れて、好きな服を着て好きな恰好をしよう、自分の外見や体型は関係なく、自分の楽しいことを増やそう、と思えるようになって楽しくなった。性自認は女性じゃないけど寄付したくて髪も伸ばしています。人目やセクシュアリティにとらわれず、自分の生きたい自分で生きられる世の中になればいいと思います。

2019年8月発行雨あがり3号「新しい」掲載