雨あがり

映画コラム【BPM/キンキーブーツ】

物語の舞台は90年代のパリ初頭。「ACT UP-Paris」というHIVへの偏見、差別と闘った実在の団体が描かれている。HIV感染者やエイズ患者だけでなく、その家族も一丸となり、政府や製薬会社相手に抗議をする姿には、目頭が熱くなった。ロバン・カンピヨが監督のメガホンを取り、第70回カンヌ映画祭において、グランプリと国際映画評論家連盟賞をダブル受賞した。


生きたい、仲間や恋人を救いたい、必死な思いがひしひしと伝わってくる映画だった。
現代では、エイズ感染の正しい予防方法が啓蒙されているが、映画の時代では広く知られておらず、誤解され、差別や偏見に苦しむ人が大勢いた。LGBTだけ
に留まらす、人種や宗教的価値観をも含んだ上でのマイノリティが描かれていると感じた。
鮮やかな色彩の描写や、臨場感あふれるディベートのシーンを含め、自然でまるでセミドキュメンタリーのようなタッチだった。
映画構成は、ACT UPメンバーによるディスカッションと抗議活動、活動家の生活、主人公ショーンとナタンのロマンス、そして闘病生活。
テーマカラーであるショッキングピンクをモチーフとしたパレードは、色こそ鮮やかなものの、ショーンが死と向き合い始めたこともあってか、どことなくもの悲し
さを感じた。
性と生、死への不安や孤独、閉塞感、製薬会社や社会に対する怒りや不安で当事者のリアルな感覚や切なさに胸がいっぱいになった。
もし自分の恋人、愛する家族、共に闘う仲間の命の期限が迫った時、私はどうするのだろうか。死を目前に控えた時、どんな行動をとれるのか。
今を精一杯、力強く生きる者たちの命のやりとりを是非皆さんにも体感していただきたく思う。

父の急逝により、イギリス中部に構える倒産寸前の4代目紳士向け革靴工場の社長を継いだチャーリー。ロンドンで出会ったドラァグクイーン・ローラがきっかけとなって、会社の立て直しをかけてドラァグクイーン向けの靴「キンキーブーツ」の製作を開始。チャーリーや工場の職員たちのドラァグクイーンへの偏見は変わるのか?
そしてこのビジネスは成功するのか?反響を呼びブロードウェイミュージカル化、日本でも2019年に日本版ミュージカルの再演が決定している、実話を基にした人気作品。


何と言ってもローラたちドラァグクイーンの堂々としたパフォーマンスは、とてもファビュラスで見ていて清々しい。
特にローラはギラツキMAXの派手な女装をしているとき、周りの目も悪口にも気にせず強気なのだが、男装になると途端に声も小さく弱気になってしまう。
好きな服を着ることがどれだけ自信になるかを思い知らされた。
一方、一番心苦しかったのがチャーリーの奥底にある偏見が強かったこと。最初にローラと出会ったときは、驚きこそすれあからさまに差別することはなかった
が、打ち解けた後でもいざローラと一緒に街に出ることに対してはかなり渋り、「服装倒錯者は隠れていなきゃいけない」とずっと思い込んでいたのだ。しかし、「隠れていなければいけないと他人に決めつけられるのはお門違い」「偏見差別する人ってカッコ悪い」というスタンスが映画全体に一貫して流れていたので、悲観的になることもなく安心して観ていられた。
なお、チャーリーがローラに試作品第一号を見せたときのローラの反応は、めちゃくちゃ面白いけど下ネタが苦手な人はちょっとだけ注意。
好きな服を色々な理由で着られない人や、周りに馴染めないと思っている人は特に元気をもらえる作品。

2019年2月発行雨あがり2号「繋がり」掲載