雨あがり

一度は封印した本当の自分【まなみさん】

まなみさんは一度は封印した本当の自分を、自分自身でも認めるため、怖いと思うことに挑戦しつつ壁を越えてきました。また職場ではダイバーシティの取り組みがあり、その中でセクシュアルマイノリティのコミュニティに属し、対外発信チームとして活動されています。性自認のきっかけから、これからはじめていきたいことまでお伺いしました。

一度は封印した「本当の自分」

自分のセクシュアリティを自認したのは高校生の時です。男子校でしたが、同級生に告白されたりして女性の面を認めてもらったみたいで、嬉しかったんですよ。その頃に初めて女性の服を着てみたんです。ドキドキしつつ鏡を見たら、しっくりきて。考えてみたら幼少期から女の子の遊びが好きで、高校生の時に改めて女性の自分を意識するようになった感じですね。でも高校の終わりに家庭のゴタゴタから、余裕がなくなってしまって。家族の生活を支えるために女性の自分を封印し、私は男性なんだ、強く生きなければいけないんだと言い聞かせて生きてきました。働きながら大学を卒業し、社会人になり、女性と結婚もして、とても長い間封印してきたんです。
そんなある日、仕事で懇意にしていた社長さんが自ら命を絶ってしまったんです。そして私自身も職を失ってしまい、身体も壊して入院しました。同時に東日本大震災もあり、病院で被災しました。ショッキングなことが立て続けに起こって、ゼロから人生を考えなければならなくなったんです。これからどう生きようかと思い、今までの振り返をしていた時に、封印した女性の自分を思い出しました。それで久しぶりに女性の服を着てみたんです。そしたらとても楽しくて。封印した自分が蘇ってきました。
初めは部屋の中で着替えて、鏡の前でポーズをとるくらい。それからネット上で反応を見てみたり。褒めてもらえると更に嬉しくなりました。そうしているうちに外に出てみたくなって。ホテルで着替えて、夜の街へ2、3歩出てまた戻ったり。初めは後ろ指さされることが恐怖でなりませんでした。でもそのうち受け入れてくれる人もいることがわかったんです。
私自身も、女性だったらやりたいことがたくさんあって。カフェに行ったり、旅行したり。それを順番にやっていきました。そのうち抑圧していた女性の人格が強くなっていって。まるで成長が止まっていた女の子が外に出て、どんどん成長していく感覚です。
私自身社会の中で生きて行くのに、女性の部分を認めちゃいけないと思ってたんです。でもこっちが本当の自分なんだと、経験を積み重ねる度に確信に繋がりました。それに自分自身を受け入れることができると、気持ちが楽になりました。それが当たり前になって、自分を隠しておけなくなりましたね。だから挑戦して現状を打破していく。
今は女性の私が本当の私だと思えます。見せちゃいけない、隠していた自分を外に出すって怖い。でも同時に解放感があって世界が違って見えるんです。人生って素晴らしい、本当の自分に辿り着くってこういう事なんだなって。

理解ある職場に後押しされてカミングアウト

私が勤務する職場ではダイバーシティの取り組みの一つとして、5年ほど前からLGBTのコミュニティがあります。LGBTのコミュニティには40人程参加していて、私はその中の対外発信チームで活動しています。例えば自分がアライ(セクシュアルマイノリティではないが、セクシュアルマイノリティを支援する人々)であることを社内のポータルサイトで宣言する仕組みがあって。そうすると自分のページにアイコンがついて、アライだとわかるようになるんです。福利厚生も男女のパートナーと同等の権利が得られます。
ただクライアントの社内で共に働くスタイルが多いので、お客様の理解もないといけない。私が女性の格好で行ったとして、トイレはどうなる?とか。拒否反応を示す方はいますし、会社内の仕組みは進んでも、まだ壁はありますね。
一方で今年の会社の取り組みとして、5月の東京レインボープライドに参加しました。その際に私は会社のメンバーにカミングアウトして、女性の格好で自分の生き方をお話しました。セクシュアルマイノリティが少しずつ世の中に認知されているようにも感じていて、職場でカミングアウトすることができたと思っています。

親友であり、よき理解者となってくれたパートナー

家庭のゴタゴタを見てきたことや私自身の性的指向もあり、結婚願望はなかったです。でも今の奥さんは真面目で、とても良い人だったので結婚しました。でも子供はつくれなかったです。だけどカミングアウトした時、自分の人生だから良いんじゃない?と言ってくれて。一緒に買い物したり、旅行したり、アドバイスをくれたり。良き理解者であり、親友のような関係です。とてもありがたいし、自分は本当に恵まれてると思います。

まなみさんのこれからについて

どんな形でも一人の女性として社会と関わっていけたらなと思ってます。いつかは女性として働けたら素晴らしいなと。会社で参加した東京レインボープライドで、また一つ壁を越えたように思います。だけど実際に女性で生きるのは大変な事だと思う。色んな苦労があると思うし、リスペクトという意味で、軽々しく「私、女性として生きます」とか言っちゃいけない気もするんですよね。それでも一歩踏み出してみたい思いがあります。
あと色んなイベントにも参加してみたいですね。先日オクトーバーフェストに民族衣装で参加してみたんです。周りは好意的に見てくれて、一般の方と仲良くなることができました。すごく楽しかったです。そういう経験を経て、地域のコミュニティにも参加したいと思うようになりました。今後は本来の自分で、社会との関わりを持っていければと思っています。
最近は特に、女性としての自分を出したいという思いが止まらなくなっていて。もっと女性に近づきたいと思っています。これからも自分なりの挑戦を続けて行きたいです。

2018年発行雨あがり創刊号「はじまり」掲載